2021年6月2日水曜日

創業時に知っておきたい「事業の終焉」

創業時に知っておきたい「事業の終焉」

 こんにちは!中小企業診断士の白井です。

 今回は少し物騒なタイトルですが、創業時に知っておきたい「事業の終焉」というタイトルでお送りします。

 感染症拡大により企業の業績が大きく影響を受けたことから、コロナ倒産という言葉が聞かれて久しい昨今。創業者、あるいは創業希望者も企業の倒産について考えることが増えたのではないでしょうか。

 ところで、倒産とはどのような状態を指す言葉かご存知でしょうか?「破産(会社がなくなる)」というイメージを持たれる方も多いと思いますが、会社が消滅せず存続するケースも「倒産」という用語でくくられることがあります。「民事再生法」や「会社更生法」を適用した企業です。これらの法律は利害関係者の支援を得ながら会社を再建していく枠組みで、適用を申し立てた企業は消滅せず再建計画に基づく事業経営を続けていきます。

 このように倒産と言っても色々な形があるのですが、倒産とは、

「企業が債務の支払い不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態」を差します。つまりお金が底をつき、返済義務(支払金額、支払い時期)を果たせない状態になることです。

 私は最近、ライフワークとまではいかないですが「倒産」について色々な書籍や資料を読み解いています。何事も始まりがあれば終わりがあるわけで、それは企業も例外ではありません。企業がどのようにしてその生涯を終えるのかを知ることで、あるべき企業経営の姿が浮き彫りになるのではないか、と思っています。

 実際に倒産事例を調べてみると、倒産企業には共通点の多いことが分かります。成功事例には数多の要因が絡んでおり、共通点を見出すのは難しいですが、倒産事例は数種類の類型に大別できます。この倒産の要因をしっかり押さえることは、創業者や創業希望者にとって意義あることだと思います。

 それでは企業が倒産に至る主たる理由について解説していきます。

企業が倒産する要因

倒産理由①どんぶり勘定経営

 多くの倒産事例で目に付くのが、会計や資金管理がずさんで会社の資金実態が掴めていないという状態です。リターンの計算もせずに大規模な設備投資を繰り返す、運転資金がいくらなのか知らない、支出額及び支払い時期が分からないといった具合です。経理しか財務状況を把握しておらず、その経理もなぜお金が不足するのか原因が分からない。。この状態で資金が回る方が不思議と言わざるをえません。取引先の倒産に伴う連鎖倒産も、ずさんな数値管理に端を発しています。

 創業当時は営業やオペレーションなどで忙しくなります。もちろん大変重要な仕事ですから、これに注力すること自体は否定しません。しかしそれでも、創業当初の取引量が少ない間に、創業者自ら経理業務をやってみることをお勧めします。知識が不足していたら、ぜひビスタ相談窓口やセミナーを活用して頂きたいと思います。

 大変有能でバイタリティあるアイデアマンの経営者が、会計や資金管理への無頓着さ、知識のなさから無謀な猪突猛進経営を進めてしまい、気が付いた時には火の車になっているケースは大変多いのです。売上や利益が増加しているにもかかわらず資金が枯渇する「黒字倒産」は、倒産件数の約半数を占めています。世の中に価値を提供する意気込みと気概とセンスを持つ経営者の会社があっけなく倒産してしまうのは、この会計や資金管理への無頓着さからくるどんぶり勘定経営にあります。会計や資金管理は経理の仕事ではありません。もちろん記帳実務は経理がやれば良いですが、その中身やお金の動きを把握し適切な経営判断を下すのは経営者の仕事です。

倒産理由②急激な事業拡大

 ①とも関連しますが、会社の体力や資金繰り状況を把握せずに、ひたすら売上向上をめざして急速な多店舗展開や設備投資を行うと、資金需要が増加します。出店費用や運転資金が増加するのは勿論ですが、忘れられがちなのは法人税の増加です。いきなり利益が増加すると前年の予定納税が少ないために一気に法人税負担が増えることになります。反対に、出店したのに赤字店舗が多ければ資金の原資が稼げないわけですから、これも資金繰りを圧迫します。

 実は事業を拡大する時にこそ資金管理が重要になります。拡大すれば売上高は伸びますので絶好調な感じがするのですが、「資金」も同じように絶好調とは限りません。多くの場合資金面はそれまでのバランスが崩れ(借入金や在庫が増加する等)不安定になります。そんなときに何か大きな外部環境変化があると、突如売上や利益がダメージを受け、支払い負担が重くなるということになります。

 創業後に事業が軌道に乗ると、拡大を目指す局面に差し掛かります。拡大そのものは大変意義のあることです。しかし無謀で性急な業務拡大には資金面のリスクが大きいことを認識しましょう。拡大に向けた事業計画に基づいて戦略・資金の両面から経営判断を下す必要があります。

倒産理由③環境変化への適応を怠った

 社会環境や顧客の消費行動やテクノロジーは変化し続けます。まさにコロナ拡大は大きな環境変化と言えます。消費に限らず様々な活動がオンラインに置き換えられ、人との接触や外出を伴う消費は抑制され、代わりにおうち需要が伸長しました。

 東京商工リサーチが、100年以上続く老舗企業に幾度となく訪れた経営危機を脱してきた秘訣をアンケートしたところ、目立った回答は「業態転換」と「主力商品サービスの転換」だったそうです。環境変化に合わせ、自社の事業そのものを作り替えていくプロセスをやり続けてきた会社が生き残っているのです。

 創業希望者の中でも人気のある飲食業は、コロナの影響で大打撃を受けました。昨年は都内の日本食チェーン店の倒産があり、これに関連した業者の倒産も発生しました。

 しかしテイクアウトやデリバリー、食材の販売、キッチンカー出店など様々な提供形態が生まれたのも事実です。環境変化に適応することで売上高を確保するばかりでなく、事業が新たな能力を獲得していく機会にもなります。 売り物、売り方、売り先を時代に合わせて工夫し続けることが重要です。またこれらの取り組みは常に「トライ&エラー」「やり続ける」ことが大切です。販売活動に特効薬はありません。やるべき重要事項を定め、これを根気よくやり続けなければ、販売の成果は中々出ないものです。

倒産理由④社内統制の崩壊

 倒産企業には、役員同士の不和や社員との不和、行き過ぎた派閥争い、着服や横領といった内部統制の崩壊を招いている企業が多いです。役員が頻繁に入れ替わったり、社員が一斉退職する、ストライキする、内部告発などの兆候が表れます。

 複数人で共同創業する際は、お互いに腹の内を割って話し合い、十分納得のいく方針を固めてから創業して頂くことが望ましいです。創業前よりも創業後の方がよほど大変です。創業後、思い通りに事業が進むことなどまずありません。創業前の希望に満ち溢れた状況と、厳しい経営環境に立たされた状況では、同じ人間でも考え方と言動が全く異なるものです。

 平時に仲が良いから、という理由で共同創業することはお勧めできません。お互いがビジョンを共有し、苦難を乗り切れる同志であるかどうかを何度も確認するべきでしょう。


 本日は、倒産という企業の終焉から創業者が知っておくべき教訓を解説してみました。是非参考にしていただければと思います。

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